夜、ベッドに入って、あやめは思う。
なんなんだろうな、あの人は。
ビクつきながらも強引。
仕事中の強引さが日常生活に、つい出てくるのだろうか。
それにしても、あんな人に、いきなり、好きだとか言われてもピンと来ないんだが……。
もともとはただ雪山で助けられた―― いや、助けたという感じでもないのだが、
感謝の気持ちだけだったのに、誰かになにかを吹き込まれて、恋愛だと思い込んでいるのでは、とあやめは疑う。
誰かになにか、というところで、高倉の顔が浮かんでしまった。
そのとき、廊下から足音が聞こえてきた。
……誰だろう。
頭の中では、見知らぬ男が廃墟でカンテラを持って歩いていたが。
此処は廃墟ではないし。
暗いのも、この部屋の中だけで、廊下は灯りがついているはずだ。



