数刻後…。


「あ、あの沖田さん…。」


中庭で自主練を続けていた沖田に声を掛ける。

沖田は雪花の方にゆっくりと振り返る。

仕草はゆっくりであるが殺気はとてつもなかった。


「…何か用?」


睨みながら沖田は雪花に尋ねる。

雪花は少し冷や汗を垂らしながら沖田に言う。


「えっと、私に、街、案内してくれませんか…?」


暫くの間沈黙が続いた。

ふと、沖田の呼吸音が聞こえた。


「何で僕が君なんかの為に案内しなきゃいけないの?
 見て分かる通り、僕自主練中何だけど?」


応えは勿論予想通り。

雪花は焦りながら続けた。


「あの、沖田さんが甘味好きで、
 街のことを良く知っていらっしゃると、
 近藤さんにお聞きしたので…。」


近藤、という名が出たその時沖田の眉がピク、
と微かに動いた。


「…分かった。じゃあ君直ぐに準備してよね。」


そう言い残すとさっさと部屋に戻っていった。

雪花は少し安心した様で胸を撫で下ろした。



























そしてまた、数刻後…。






























「あのぉ、沖田さん…。」


「ん?何?」


「いや、何?、ではなくて…


甘味処寄りすぎじゃないですか…?」


雪花がこう言うのも無理は無い。

何故ならこれで五軒目。

雪花は沖田の甘味好きに少々どころではなく驚いた。

はぁ…と思わずため息を漏らす雪花。


(土方さんの気持ち何となく分かってきたかも…。)


と、しばしば思う雪花であった。


「た、助けて下さいまし!!」


女性の叫び声が少し離れた所で聞こえた。

雪花は思わず立ち上がり走り出した。


「ちょっと待ちなよ雪花ちゃん!!」


沖田の制止は雪花には届かなかった。





































タン、と降り立った其処には
女性がガラの悪い男性に襲われていた。


「おやめ下さい!!」


「ああ?テメェの言い分なんざ聞く気はねぇよ。
 とっととついてきやがれ!!」


はい、出ましたよ。

物語の序盤に出てくる分かりやすい悪者さん。

何があったか分からないが、
雪花は女性の前に立ちはだかった。


「少しお話をお聞かせ願っても宜しいでしょうか?」


なるべく敵を刺激しない様に優しく話しかける。

しかし相手は苛立った様子。


「テメェ誰だ。俺が用あるのはその女だ。
 餓鬼はすっ込んでやがれ。」


「そのガキに刀を向けるなんて
 悪いとは思わないんですか?」


雪花も少し苛立った様で男を挑発する。


「煩いぞガキ。まずまずぶつかってきたのは
 その女だ。お前に用はない。」


「ん?ぶつかった…?」


「ああ、そうだ。その女が「ブハッ!!」…あ?」


「フ、アハハハハハハハ!!」


「テメェ何がおかしい。」


「え?自分で分からないんですか?面白いですね。
 だってそうでしょう?ぶつかっただけで切る?
 こんな面白い事は聞いた事がありません!!
 そんな短気な人がこの世に居たとは!!」


あえて大声で大袈裟に笑いながら言う。

町の人々に聞こえるように。

そしてプツリと男の怒りが頂点に昇った。


「テメェ…ガキだからって許されるとは思うなよ?」


雪花を睨みつけながら刀を向ける。

しかし雪花にはそんな脅しは聞かない。


「思いませんよ?それに貴女に負ける気は
 しませんしね?」