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「泉、冷やすか?」


隣でコーヒーを飲む泉の手を見て、俺はついついそう尋ねていた。


「ん?うわ、こんなんなってたのか。そりゃ痛い訳だ」


手をプラプラ振って、気づいたから余計痛くなってきた。そう泉は怒っていた


あの時

杏の執事の、志木ってやつが部屋に入ってきて、そしてなんの間も無く、泉に殴りかかった


それを受け止めた時に、手を痛めたらしい


そりゃそうだ

骨と骨のぶつかる、嫌な音がした


俺は何も動けなかった


俺は何もできなかった


「何?その顔」

「別に…ただ、何もできなかったと思っただけ」

「お前も痛むか?顔。はたかれたろ」

「うん、なんか泉に殴られたのと同じ場所だから、もう何で痛いのか分かんねぇ」


ラッキーじゃん

そう泉は笑った



「なぁ、愚痴吐きたいなら吐けば?」

「……ん?」


泉は分かりやすい。変に明るく振る舞う泉を、見たくない

俺だって同じ気持ちだから



「……お前、そういう勘はいいよな」

「勘って言うな!人を見る目と言え」

「うるさい。でも…助かるよ」