そして最後にデコピンをした


「心配しすぎ。取り乱さへんよ。近づいてん、ようやくサトルに」


強く言う杏の後ろ姿を、ただ見ることしかできなかった。
でもその後ろ姿は


俺にとってはとても小さな背中だった


「志木が、手を汚す必要は全くない。それはあたしもや。あたしもサトルのせいで、犯罪者にはなるつもりもない。
然るべき方法で、サトルを裁いてやろうと思ってる。

あんたは、あたしが暴走するのを止める役目や。あんたがそんな、血走った目してたら、あたしは冷静にならざるを得ないやろ?

ちょっと最近、おかしいで」


どうかした?

杏は優しく問いかけて志木さんの手を握った。


そんな杏を前に、志木さんは力なく笑うだけだった


「すみません、勝手に不安になってました。あなたの御友人に手を出して申し訳なかったです」


「ま、志木はあたしのためにしか動かへんし、あたしのこと心配してたのは分かるから、泉がいいなら、許すよ」


何もされてない?大丈夫?
そう尋ねる杏に、大丈夫だったと答えるだけ。

2人の間に流れる空気を感じることが、今は嫌だった