遠くから救急車のサイレンが聞こえてくる。

交通事故で車と接触した原付バイクの男性、救急隊員とやり取りした内容を大翔が私に伝える。

「この患者を見たら上がりだ愛美。

疲れてるだろうがあと少し頑張ってくれ」

ふわりと微笑み、頭をポンポン叩く癖は昔からかわらない。

彼にとって、昔から私は犬なのだ。

飼い主の機嫌を取り、尻尾をふってじゃれつき、飼い主の言動で一喜一憂する忠犬。

今も私だけに向けた笑顔と、撫でられた頭が嬉しくて、微かに頬を緩めて私に尻尾かはえていたらおもいっきりぶんぶんふっているのだろう。

幼馴染みとはいえ、ある意味私は彼にとっては特別な存在であることに違いないのだ。

それが嬉しくて…私は大翔を諦めきれずにいる要因だ。

突き放しきれないでいる大翔は、優しくもあり罪作りな残酷な人だ。

絶対に手に入らない人なのに、それでも私は、幼馴染みで犬の立場に満足してしまっている…。