私は黒いキャップを目深に被って、
「じゃあ、行ってきます」
とママに背中を向けた。
玄関のドアを開ける。
なかなか足を踏み出せない。
深呼吸をして、1歩。
右足をドアの外に出す。
「行こっか」
幸人くんがキャップの上から私の頭をポンポンした。
もう何度目かの外出だけれど、まだ全然慣れない。
ゆっくりと歩く。
フラフラする。
足に現実味がなくて、宙を歩いているみたい。
目に飛び込む景色が妙に色彩鮮やかで、目が眩む。
だんだん呼吸がしにくくなった。
「葵」
幸人くんが私の顔を覗きこむ。
「大丈夫。ちゃんと歩いているから」
幸人くんがそう言って、ニコッと笑ってくれる。
歯並びの良い、白い歯が見える。