「こんにちは」
幸人くんが軽く頭を下げて、ママに挨拶をする。

「おかえりなさい」
ママの言葉に幸人くんは笑顔になって、
「ただいま」
と言った。

今まで通り幸人くんは、平日は学校が終わると私の家にきてくれる。
その日の授業のノートや、配られたプリントなどを渡してくれる。
今までと違うことは、私が部屋の中に逃げずに玄関で幸人くんを待っていること。
そしてそのあと、ふたりでほんの少しの外出をすること。

「ほんの少し」というのは、私の家の周りをぐるりと一周するだけ。
まだ外出は怖い。

「少しずつ慣れよう」
幸人くんは言ってくれた。
「ちょっとずつ外に出て、怖い気持ちをなくしたらいいじゃん。オレ、手伝うよ」