メリーゴーランドは空席

「葵?」
幸人くんはちょっと戸惑っている。


「今日は楽しかったから、本当にすっごく嬉しい日だったから」
片手に抱いているウサギのぬいぐるみに視線を落とす。
「だから、楽しくバイバイしたいよ」
私は精一杯の言葉で、幸人くんに近づこうとした。


幸人くんはそっと私の手をTシャツから離して、
「オレも楽しかったから」
と言って、私の頭を優しく撫でた。
「また学校で会おうな」
そう言って、幸人くんは背中を見せた。


幸人くんの背中が見えなくなるまで、私はウサギを抱っこしてその場に立っていた。
振り返って手を振ってくれんじゃないかって思ってた。


でも幸人くんは1度も振り返らず、手を振ってくれることもなかった。