「可愛いお嬢さんにプレゼント」


悠之介は小声で言うと、肉じゃがを出してくれた。


「今日は美味しくできたのよ」


得意げに笑う悠之介を、可愛いと思った。
それと同時に、過去のことをくよくよ悩み続けている自分が馬鹿らしくなった。


箸を手に取り、じゃがいもを口に運ぶ。


「うま……」


今まで食べてきた中で、一番美味しい。
優しさに包まれるような、懐かしい味がする。


その味は私の心の傷を癒してくれて、一粒の涙が落ちた。


悠之介はカウンター越しに私の頬に手を伸ばした。
私の涙は他の客に気付かれることなく、拭われる。


「聡美ちゃんが最高に可愛い笑顔を見せてくれるなら、いくらでもサービスするわ」
「……赤字になるよ」
「あらやだ。料理だけって言ったかしら」


今度は意地の悪い笑み。


ときどき見せるこの顔にときめく自分が嫌だ。


「顔が真っ赤よ?何を想像しちゃったのかしら」


コノヤロー……


これ以上墓穴を掘りたくなくて、私は黙って目の前の料理と飲み物に集中した。


気が付けば、空のジョッキが片手では数えられないほど、机の上に並んでいた。


どれだけ飲んでも酔えなくて、もう一杯頼んだのに、出てきたのは水だった。