「あー・・・なにやってんだもう・・・デュエットするときは・・・言えって・・・」
・・・昔はよくあったな。
カラオケで寝落ちしたのを見て、寝顔はあどけないなって・・・。
ハァ・・・。
何考えてんの、私。
『・・・アンリ。 サボり? 殺しちゃうよ』
「・・・ん・・・深夜のカラオケで・・・放送コードギリギリの変なタイトル曲入れるのはナシだろ・・・」
『・・・・ふっ』
思わず吹き出してしまった。
暴力団のトップとは思えない寝言じゃない。
でも、間違いなくこの男は【悪魔】だ。
多くの命を奪ったRoseliaの教祖で、私から大切なものを奪った元凶で・・・。
なのに。
こんなふうに人間らしい姿を見せることもある。
じゃ、本当の“染谷アンリ”は?
一体どこにいるんだろ・・・。
「んん・・・だから・・・悪戯はNG・・・」
『曲のサビでネタ曲予約するのって、カラオケあるあるなんよ』
顔を見に来ただけなのに、なんかどっと疲れちゃった。
ふと、帰り際に合鍵をどうすればいいのか。
そんなことを思ったけど、使い道ないし、壊すか捨てるかしようかな・・・。
すやすやと眠りにつく兄さんを起こさないよう、そっと背を向けて立ち去ろうとした瞬間。
兄さんが勢いよく身を起こした。
『わ、おはよう』
「んー・・・おはよ・・・?」
『うたた寝なんて、珍しいね』
「昨夜、寝かせてくれなかったのは誰だよ。 目覚めがスッキリしないしシャワー浴びるわ」
そう言うと止める間もなく、兄さんは上着を脱ぎ捨て・・・。
更にシャツまで脱ごうとする。
『一緒に入ろうとか言わないよね? さすがの私にも恥じらいはあるよ。 命令でも無理』
「なに? 欲求不満?」
『変態。 バカ。 シスコン』
「悪かったな、変態でバカでシスコンで」
『否定してよ』
「いや、だって事実だろ。 それはともかく、告白された男の部屋に上がるっていうのはいつもと違うんじゃないか?」
ズボンのベルトを緩め、兄さんはゴクリと喉を鳴らした。
気絶させて黙らせよう。
そう思って、椅子に近づくと。
『えっ・・・』
兄さんに手を引っ張られ、そのまま・・・。