家に帰った私は、眠れなかった。
それは、消してしまいたい記憶。
でも、絶対に忘れられない。
忘れてはならない記憶だ。
“人殺し”
耳障りで大嫌いな、増悪が滲んだ声。
『染谷ユリ』に息の根を止められた者たちの悲痛な叫び声が鼓膜を震わせる。
もちろん、これは幻聴だ。
道を踏み外したあの日から、前触れもなく聞こえるようになった。
そして私は主張する。
あれは正当防衛だ、と。
“お前さえいなければ生きられたのに”
・・・ああ、そうだよ。
あなたさえいなかったら、アイジさんは生きられたんだ。
“殺したかったんでしょ?”
そんなわけない。
私は兄さんを愛してた。
何があったって私達は家族なんだから。
“約束なんて口実だ”
うるさい。
“自分の欲望を満たすために殺した”
違うッ!!
“何であんたはのうのうと生きてんの?”
それはッ・・・。
“お前は幸せになる資格なんてない”
わかってる。
“人殺し”
そう、人殺しなんだ、私は。
“お前が殺したんだ”
うん・・・。
“本当は全部、自分のためでしょ?”
そうかもしれない。
だけど、
『殺さなきゃ』
あの時、確かにそう思った。
『殺さなきゃいけない』
完全に失われてしまった理性が、この手を止めてくれることもなく・・・。
ただ、本能で・・・。
“家政婦?笑わせるな”
“犯罪者のお前に何ができる”
黙れ。
“愛情とは無縁の世界にいたくせに”
黙れよ。
“両親が死んだ時のお前の顔、嬉しそうに笑ってたよなあ”
ーードンッ!
『くそっ、誰なんだよお前ッ』
私は壁を思いっきり殴って、そのままズルズルとしゃがみ込んだ・・・。
ふと目に入った鏡に写った自分の姿を見て、ハッと乾いた嘲笑が溢れる。
それは写し鏡。
醜く育った、私自身・・・。