「一旦ここを離れよう」


まだ声が聞こえてきている中、知樹がそう言ってあたしの手を握りしめた。


池から数歩離れてみると徐々に声は遠ざかり、やがて消えてしまった。


「今のはなんだったの?」


誰とはなしに聞いてみても、答えられる人なんていなかった。


ただ背中に嫌な汗が流れ出し、とても寒く感じられた。


「写真を確認してみよう」


直弘がそう言い、さきほど撮影した写真をあたしたちに見せて来た。


そこに写っていたのは……見間違いようもなく、赤ん坊だった。


池の中央付近に、泡ではなく赤ん坊が顔出しているのがわかった。


赤ん坊は顔をクシャクシャに歪めて泣いている。


「この子があたしたちについて来てる子?」


あたしは自分の体を抱きしめ、両腕をさすりながら言った。


「そうなのかもしれない。だけど、ここで赤ん坊が死んだとか、事故が起こったなんて聞いたことがないよな」


知樹は眉を寄せている。