「アジサイ寺には初めてきたけど、恵梨佳と一緒に来られて良かったよ」


寺から下りて来た時、知樹が言った。


それってどういう意味だろう?


特別な思い出になったって考えていいんだろうか?


聞きだすことができなくてモヤモヤとした気分のまま、再びバスに乗り込んだ。


もう、このまま真っ直ぐ帰ってしまうんだ。


そう思うと自然と口数が減ってしまった。


まだ、もう少し一緒にいたいな。


そう思っても、やっぱり言い出すことができなかった。


知樹は今日もランニングをするのだろうから、邪魔をしたくなかった。


バスは滞りなく走行を続けて今朝乗ったバス停で停車した。


「家まで送るよ」


バスを降りてすぐ、知樹がそう言ってくれた。


家までは徒歩で移動できる距離だし、そのくらいなら甘えてもいいかもしれない。


そう思い、あたしは素直に頷いた。