見ツケテ…

一刻も早くトイレから出たいと思うのに、恐怖で足が動かなくなってしまっていた。


流れ出す水に違和感があり、視線を落とす。


それはいつの間にか緑色に変色していて、何本もの長い髪の毛があたしの指に絡み付いていた。


「い……や……!」


悲鳴も喉の奥に張り付いて出てこない。


本当の恐怖を味わった時、人間はなにもできないのだと理解した。


そして……あの声が徐々に徐々に近づいてくるのがわかった。


さっきまで遠くから聞こえてきていたのに、今は同じ空間から聞こえて来る。


一体、どこから……。


ガチガチに固まった体を無理矢理動かして周囲を確認する。


しかし、そこには変わらないトイレが広がっているばかりだ。


外から生徒たちの賑やかな話声が聞こえてきているのに、ここだけ静まり返っていて、まるで別世界みたいだ。


スッとトイレ内の温度が下がるのを感じる。