「おい、起きろ!」
 ぼやけた頭の中で四季の声が聞こえる。
 はっきりとしない記憶の底で、ただただ悲しい感情が広がっていた。
 この世界で独りぼっちになってしまったかのような寂しさ。
 途方もない不安。
 何だろう。
 何だろう。。
 何だろう。。
 ……そうだ。
 四季。
 それに冬ちゃん。
 あたしは思い出す。
 二人があたしの目の前で……。
「おい!」
 身体が激しく揺さぶられる。
 あたしは目を覚ました。
 白いワイシャツに空色のスラックスといった格好の四季があたしを見下ろしている。
 その顔は怒っているというより呆れているふうに見えた。
「やっと起きたか」
「起きてないよ」
 あたしは目をつむった。
「まだ眠ってるよ」
「アホか」
「……あたしは眠り姫」
「はあ?」
 にやけながらあたしは言った。
「キスしてくれないと眠りから覚めないよ」
「あれか? 毒リンゴでも食べたのか?」
「それは白雪姫だよ」
「どっちでも同じだろ」
「違うもん」
 四季がため息をつくのがわかった。
 あたしはじっと待つ。
 やがて……。
 彼があたしに触れた。
 うん。
 四季だ。
 四季の感触だ。
 あたしがそれを堪能する間もなく、四季が離れる。もうちょっとそうしていたかったのに。でも、それはそれで四季らしい。
 あたしが目をぱちりとさせると、四季が少し表情を強ばらせていた。頬を朱に染めているのに気づかなかったふりをしてあげよう。
 よかった。
 あたしは半身を起こしてにっこりとしてみせる。
 四季だ。。
 あたしの好きな四季。
 あたしのことを好きな四季。
「おはよう、四季」
「おはようじゃないぞ、このドアホ」
 うん。
 こうでなくっちゃね!
 
 了。