四季は学生服姿も似合う。
 美少年の特権とでも言えるのか、ただ黙って立っているだけでも絵になる。
 あたしたち以外に誰もいない教室。
 教卓の上にあたしは両肘をつけて身体を預けている。背後には何も書かれていない黒板。セーラー服を着たあたしの視線の先には風間四季。
 明らかに不機嫌な顔をしている。短髪の黒髪に整った顔。普段は清潔感とか爽やかさとかが一纏めにされているだなんて神様がいるのなら気まぐれにもほどがあるって感じ。これじゃ、同じクラスの男子が可哀想だし、女子には要らぬ争いの種をまいているだけだ。
 ま、あたしも四季の魅力にやられちゃった一人なんだけどね。
 あたしは四季を見つめる。
 ……四季には学生服だけじゃなく、ブレザーとかも着てほしい。黒ではなく青。空の色よりもずっとずっと清らかな青。ワイシャツの白さに負けない青。。そんな色が四季にはふさわしい。
「……あのさ」
 四季が口を開く。
「みんなが帰るまで残っててほしいって言うからそうしたけど、用がないなら帰っていいか?」
「えっとね」
 あたしは慌てて姿勢を正した。両肘を教卓から離す。ピンと背筋を伸ばした。
「こういうのも何なんだけど……」
 どうしよう。
 胸の鼓動が激しさを増している。普通に教室にいるだけなのに、クラスメイトと一緒にいるだけなのに、ごく自然に告白しようとしているだけなのに……どうしてこんなに緊張しているんだろう。
 あたしらしくない。
 てか、告白?
 あたしは自分の思いの中に疑問を覚える。
 あれ?
 あたし、告白しようとしているの?
「一ノ瀬」
 四季があたしの前の姓で呼ぶ。
 え?
 何なのこれ?
 あたしは大きな目をぱちぱちさせる。
「早くしてくれないか」
 四季の声が冷たい。
「冬美ちゃんが待ってるんだ。一ノ瀬と時間を無駄にしたくない」
「え?」
 自分でも間抜けな声だったと思う。
「冬美……って」
「お前、自分の妹の名前も忘れたのか」
 あからさまに侮蔑の色がこもっていた。あたしは別の意味でドキドキする。

 冬ちゃん?
 でも、どうして四季が冬ちゃんと?
 あたし、中学生のときに四季と冬ちゃんを会わせたことないよ。
 四季が冬ちゃんのこと知ってるはずない。
 あたしは思いきり頭を振る。
 セミロングの黒髪が舞って、宙に弧を描く。
 違和感。
 何かおかしい。
 何かおかしい。
 何かおかしい。
 あたしは頭を抱えた。
セーラー服の黄色いリボンに目がいく。
 そうだ。
 あたし、中学生だ。
 あれ?
「一ノ瀬」
 と四季。
「もういいか? 冬美ちゃんが……」
「待って」
 あたしを置いて四季が教室から出て行こうとする。
 あたしはただ目で彼を追うことしかできない。なぜか足が動かなかった。しゃがみ込むことすらできない。
 四季が行ってしまう。
 四季が行ってしまう。四季が行ってしまう……。
「待って。!」
 声に出したつもりなのに伝わった気がしない。
 四季が教室のドアを開く。。
 黒髪をツインテールにした可愛らしい女の子がいた。
 あたしと同じセーラー服を着ている。
 けど、どう考えてもこの子のほうが似合ってる。あたしなんかよりずっと可愛い。お人形さんみたいに可愛い。あたしと違ってそばかすもないし……。
 そばかすもないし……。
 そばかすもないし……。
 冬ちゃん。
 四季が軽くうなずくと冬ちゃんがにっこりと応じる。
 後ろ手で四季がドアを閉じた。
 あたしはどうすることもできなかった。
身体がまだ動かない。
 どうしよう。
 四季が。
 冬ちゃんと……。