天満の告白は、雛乃の想像以上に過酷なものだった。

妖は病で命を落とすことはほとんどないため、一体死別とはどういうことなのかと思っていたが――まさか夫に殺されてしまうなんて。

そして愛しい女を目の前で失ってしまった天満の心情を慮ると涙が止まらなくなって天満を困らせた。


「…楽しい話じゃないからあまり話したくなかったんですが」


「すみません…どうしても気になっちゃって…」


「でも朔兄に暁を任せてもらえたことで、失った娘だと思って慈しんで育てています。そうすることで正気を保っていられるんだと思う」


――羨ましい、と思った。

そんな風に誰かを心から深く愛して、こんな男に愛された女が羨ましかった。


「というわけで、妻子とは死別なんです。…泣かせてしまいましたね」


「いえ…無理に訊いてしまってごめんなさい…」


手拭いで顔を覆っている雛乃の肩を抱きたかったが、池の方で素振りをしている暁がじいっとこちらを見ていることに気がついて、やめた。


「いつか話そうとは思ってましたから。こうして暁と僕の傍に居る以上絶対耳に挟む話題でしたからね」


「寂しく…ないんですか?」


目を真っ赤にしながら立ち上がった天満を見つめた雛乃は、少し黙り込んで小さく笑ったその笑みに見惚れた。


「時々すごく寂しくなりますけど、僕には暁や朔兄たちが居ますから大丈夫」


「わ、私も…私も居ますから…」


思わず目を見張った天満は、ゆっくり暁の居る方に歩きながら雛乃に小さく手を振った。


「ありがとう。いつか頼りにするかも」


「頼りないかもしれませんが…頼りにして下さい」


ははっと声を上げて笑った天満の背中を見送った。

あの手に触れたい、と思った。

触れてほしい、と思った。

はじめて、そう思った。