幽玄町は妖が取り仕切る町だが、昼間からうろつく妖は居ない。

天満たちはまた別に理由があり、町に出ると住人たちが狂乱状態になって大騒動になるからだ。

夜は百鬼夜行があるため住人たちは早々に戸を固く閉める。

天満たちはその隙に散歩程度をすることはあるが――ぼんやりしていた天満は昼間から町に出て川沿いをあてもなく歩いていた。


「僕らの情報網に引っかからないなんてあるのかなあ…。何か悪いことが起きてなければいいけど」


もし悪いことが起きていたとしても自分たちなら対処できる自信はあるが、ぽんの気落ちが心配で早めに解決させてやりたい。

ぼんやり――しているだけなのだが、傍から見ると憂いに満ちた絶世の美貌の男が川面を眺めている様はものすごく絵になり、人垣ができつつあった。

そのざわつきではっとした天満は人見知りが爆発して顔を上げることなく足早にその場を去り、平安町と幽玄町を繋いでいる幽玄橋へ行くと、赤鬼と青鬼に声をかけた。


「おお天様、平安町へ行かれるのですか?」


「いや、散歩してるだけだよ。いつもご苦労様、後で酒でも届けさせるね」


「ははあ、これはありがたい。そういえば天様、先程…天様?」


踵を返して繁華街の方に向かった天満を見送った赤鬼と青鬼は、顔を見合わせて頬をかいた。


「来客が通って行ったんだが…報告しなくて良かったのだろうか」


「まだ若い娘だったし、悪しき者ではなかったから大丈夫だろうが…」


――そんな二匹の心配をよそに、天満は人通りの多い繁華街をぼんやりしたまま歩いてまたひと騒動起こしたのだが気付かず、またすぐ傍で聞こえた小さな声を聞き逃した。


「すみません、主さまのお屋敷はどちらでしょうか…」


その声は――待ち続けたあの声と同じだったけれど、考え事をしていた天満は気付かず、すれ違った。