鬼頭家の連絡網を使えば探せない者は居ない、と言われるほど各地を網羅している。

加えて晴明の式神は必ず本人に届くはずなので、雛乃が文を見ていないというのは有り得ない。

数日後に判明したのだが――雛乃は里を飛び出たらしい。


「あいつ…そんなに嫌だったのか…そうだよなあ、嫌だよなあ好いてもない男に嫁ぐのは…」


「嫁ぐ?そんな大変なことになってるの?」


頭を抱えてもだえるぽんの傍で膝を折って木の実を与えてやっていた天満は、黙り込んでこっくり頷いたぽんの言葉を待った。


「元々あいつも幼馴染でやしたが、いいとこの跡取りで鼻持ちならねえ奴でやす。おらたち狐狸を馬鹿にしたり、格が違うとかなんとか」


「それは酷い。早く娘さんを捜して保護してあげないと」


「雛乃が年頃になると急に下世話な目で見るようになったでやす。おら絶対あの娘っ子はあいつに嫁がせたくねえ」


しゅんと落ち込む狐狸の頭を撫でて慰めていた天満は、毎日雛乃の行方を訊いてくる暁の心情も案じていた。

あれから暁は稽古に身が入らず、どこか上の空で、周囲を心配させていた。

姉を慕う弟も然りで様々な影響が起きつつあり、どうすればいいのか考えていた。


「ちょっと出かけてもいいですか」


「狐狸の幼馴染を捜しに行くのか?暁の落ち着きがないから俺も頼もうと思っていたところだ」


「ちょうどよかった。僕が留守の間、暁の鍛錬は雪男にお願いするよ」


「いや、俺二刀流の稽古苦手なんだ。お前の時で懲りてるから無理」


「それより暁を説得して納得させる方が難しいんじゃ」


朔の指摘は当たっていた。

泣きはしないが火が付いたように駄々をこねて暴れまくる暁を説得し続けたものの、片時も傍を離れたくない暁、激怒。


「困ったなあ…」


「困らない!私も一緒に連れて行けばいいだけだから!」


「それが困るって言ってるんだよ」


「困らない!」


押し問答。