渡瀬課長のすぐ後から同期の田仲くんが顔を覗かせた。

「これからみんなで棚橋さんと飲みに行くけど長谷川もいくだろ?」

「ごめん、田仲、体調悪いから帰るよ。棚橋さんに宜しく伝えておいて」

「大丈夫か?顔色悪いな。早く帰って休め。気を付けて帰れよ」
心配そうに私を見ていた田仲は、私に声をかけてすぐに給湯室から出ていった。

静まり返ったフロアーにほっとすると同時に、一気に疲労感が押し寄せる。

力が抜けてずるずるその場に座り込みかかった私の腕を、伸びてきた手が力強く引き上げる、

「おっと。やっぱり大丈夫じゃなさそうたな。帰るぞ長谷川。
車で来てるから送ってやる」

渡瀬課長の言葉に頭を左右にふる。

「大丈夫です。一人で帰れます」

一刻も早く一人になりたかった。

「…大丈夫じゃないだろ」
支えていた腕が課長の方に引き寄せられてすっぽりと暖かな腕の中に包みこまれた。

誰かに抱き締められるのなんて三年ぶりだ。

温かな人肌に我慢していた涙が、いっきに溢れ出す。

優しく背中を撫でる大きな手は、まるで私が泣き出すことをわかっていたかのようにそのまましばらくなで続けてくれた。