「そんなことできるわけないだろ!」

苦しげに顔を歪める亮二に穏やかな口調で話しかける。

「ねぇ、亮二」

久しぶりに本人を前にしてその名を口にした。
もう二度と呼ぶことはないと思っていたかつて心から愛していた人の名前。

私の目に涙が浮かぶ。

「私たちはもうそれぞれ別の人の手をとったんだよ。

私たちはもう終わってるんだよ。

だからもう振り返らないで前に進もう。

私も亮二のことずっと好きだったよ。

今までありがとう。

真理恵さんと幸せになってね」

亮二の両腕が壁から離れ、力なく下にたれた。


その場を離れかけた私に背後の亮二が笑いだした。