隣の第二営業部課長として戻ってきた彼の左手には、見覚えのない指輪がはめられていた。

『常務のお嬢さんと婚約したんだって』

耳に飛び込んできた話に私は茫然として無表情をよそおい、感情を押し殺した。

誰も私たちが付き合っていたなんて知らないのだ。

みんな私の恋人は社外の人間だと思ってる。

だって彼にそう言えといわれて、付き合いだしたときからまわりにそうふれまわっていたのだから。

「長谷川さんの彼氏社外なんだって？」

まわりに聞こえるように彼に言われ、頷くしかなかった世間知らずで馬鹿な私…。

それでも、これは何かの間違いで悪い夢をみているのだと、信じられなくて私はただただ右手の指輪を眺めていた。