「お疲れ様。随分遅くまで働いてるんだな。
元気に…してたか?」

伸びてきた手に触れられないように、一歩後ずさり距離をとろうとしたが、亮二の手は私の右手を素早く捕まえた。

「ずっと大事にはめててくれたんだ。俺のこと、待っててくれたんだあすか」

嬉しそうに微笑まれて、婚約者がいることが嘘なのではないかと錯覚しかかり、慌てて目をそらす。

「…手、離して。
離して下さい、棚橋課長」

ぎゅっと目を閉じて心を落ち着かせ、反らせた目を亮二に向けて睨み付ける。

相変わらず手は握られたままだ。