その日は残業をして帰りがいつもより遅かった。

第一営業部のフロアーには、気がつけば数人しか残っておらず私も時計を見て区切りのついたところでパソコンの電源を落とした。

もうすぐ二十二時になろうとしていて、空きすぎたお腹は気持ち悪さに変わっていた。

「あすか」

会社をでてすぐに背後から懐かしい声が私を呼んだ。

もう二度と名前で喚ばれることはないだろうと想っていた相手からの呼び掛けに、私の肩はびくんと跳ねて立ち止まったものの振り返る勇気がない。

「あすか」

もう一度呼ばれて私は恐る恐る振り返った。