「図書館の赤い眼鏡をかけた人に言われたんだ」
「山本さん?」
「八夜さんが緊張しているみたいだから、声を掛けてあげてって。どうかした?」
花名くんはいつも、男女問わず友達に囲まれている王子様。
誰にでも優しくて、みんなから信頼されていて。
花名くんがいるところには、いつも笑い声が沸き起こっている。
彼がクラスの太陽だとすれば、私は間違いなく教室の隅でうつむく地縛霊。
目が合えば、私にでも穏やかな笑顔で挨拶をしてくれる花名くんだけど……
一度も話したことなんて、ないんだけどな……
私は分厚いレンズがはめられたメガネを、手で押さえる。
花名くんの顔を一切見ないで、うつむきながら答えた。
「今からこの図書館で
絵本の読み聞かせ会をするんです……」
「八夜さん、読み聞かせ部だったよね?」
「私はまだ入部して1か月なので
今日は見学だけのはずだったのに……」
「あれ? 他の部員さんは?」
「部長は急な用事で……
もう一人は、高熱で来られなくて……」
「でも、顧問の先生は来てるんでしょ?」
「もうすぐ奥様に赤ちゃんが生まれるからって、帰ってしまいました……」
「それはひどいね」
「あと5分で読み聞かせ会が始まるのに……
人前でしゃべるのなんて無理なのに……
私…どうしよう……」
私は、ステージに立つ自信なんてない。
でも、私が読み聞かせをするしかない。
そうしないと
楽しみに図書館に来てくれた親子に、申し訳がないから。
ドクドクと超特急で飛び跳ねる、私の心臓。
体中がガタガタと震えている。
私がステージに立つなんて、無理だよ。
また、声が出なくなってしまうかもしれないもん。
小6の、あの時のように……