「市原君、楽しくない……?」
「まさか」


市原君は立ち止まり、私に顔を近付ける。


「センセの可愛い笑顔は俺だけのものなのにって思っただけです」


耳元でそんなことを言われて、持っていた料理を落としそうになった。
市原君から逃げるように、みんなが待つ机に急ぐ。


「先生、顔赤いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫よ」


ご馳走に喜ぶ生徒がいる中、私を心配してくれる子がいた。
それは嬉しかったけど、その喜びに浸っている場合ではない。


逃げなければ。


なんとなく、そう思った。


「センセ、少し熱いですよ。休んだほうがいいです」


あとから食器を持ってきた市原君が、私の額に手を当てた。
私は後ろに下がる。


「で、でも、みんなにプレゼント配らないといけないから……」
「今から食事の時間ですよ」


どうしてそこまで私を休めようとするのかわからないけど、市原君は引かなかった。


「二人きりになりたいです」


市原君はみんなに聞こえないように囁いた。
見られているのでは、と思ったけど、みんな目の前の料理に夢中だった。


私は市原君に負け、食堂を出た。
みんなから見られないよう、ドアを閉める。


市原君は窓の外を眺めている。


「センセがクリスマスやってくれるなんて思いませんでした」