私だけが、涼ちゃんのことを見てたのに。
ずっと、ずっと。



「桃ちゃん?」

自分の世界に入ってしまっていた私を、涼ちゃんの不思議そうな声がリアルに戻す。

「桃ちゃん、お待たせ。帰ろっか」
上靴から学校指定のローファーに履きかえて、私たちはいつもの帰り道を歩き出す。

「寄り道して帰る?桃ちゃんが観たいって言ってた映画でも観に行く?」
涼ちゃんの優しい声が私のイライラした心をさらに膨張させる。

「行かない。寒いし、もう帰りたいし。それなのにさっきみたいなことで時間は取られるし」


……あ、しまった。

違う。
こんな可愛くないこと言いたくなかったのに。