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オルゴールの鳴る静かな保健室の扉が開く音が聞こえて、わたしは、あの温かな過去から現実へ、意識を戻す。



音には最低限度の慎重さが含まれていて、心臓がこくんこくんと毛布の中で音を立てる。


保健の先生には、体がマシになるまで休む、と嘘をついてもうかれこれ4時間以上はじっと横になっていた。


保健室のベッドの上で聞くチャイムの音は、教室にいる時とは違って、音の形が丸い。
それから、よく響くのだ。




長いチャイムの後に、昼休みがきたことを理解する。



さっきから不規則な周期でお腹がなっていて、どれほど絶望していても、どれほど罪悪感に押しつぶされそうでも、私はお腹が空くし、生きることを求めてしまう。



簡単に人を笑わせることができるなら、どうでもいい誰かが傷ついてもいいし、自分が助かるなら誰かが犠牲になってもいい。
奈々ちゃんが私を好きでいてくれるなら、牧くんなんてどうだっていいし、毎日がつまらないなら、誰かの秘密を笑ってもいい。





眞島くん、ちょうど、羽のような軽さだった。


一度手放したものは、わたしのもとから一瞬ですべりおちて、黒く染まった。

そんなに黒くなるなんて思わなかった。





でも、眞島くん。
染めた人たちのせいではないのです。

手放したのは、わたしだ。

手放さなければ、きっと真っ黒に染ることはなかった。