それはこの課だけの決まりだった。


「……どうしてですか」


今まではそういうルールがあるんだと、軽く流していた。
しかし、いざ自分がその状況になると、納得がいかない。


「冷静な判断ができなくなるからよ。これは意地悪で言ってるわけじゃない。木瀬の気持ちは痛いほどわかる。でも、諦めなさい」


そう言われて、はいわかりました、なんて言えない。


腹部を刺されたということは、光輝は誰かに殺されたということ。
その犯人を、自分の手で見つけ出したい。
見つけ出して……


「その目。犯人を恨んでいるでしょ」


先輩は両手で私の頬を挟んだ。
眉間に力が入っているから、今、先輩を睨んでいることになる。


「……恨むなって言うほうが、無理な話です」
「うん、わかってる。でも、そういう思いが、木瀬を間違った方向に導く」


言い返せなかった。
視線が先輩の襟元まで落ちる。


それを見て私が諦めたと判断したのか、先輩は手を離した。


「伊藤、木瀬のこと頼んだよ」


先輩は人混みに戻っていった。


「木瀬、帰ろう」


伊藤に言われて、まず深呼吸をした。


「ううん、一人で大丈夫。伊藤も捜査に加わって。光輝を殺した犯人、早く見つけてね」


すれ違いざまに伊藤の肩に手を置き、現場を離れた。