頭が真っ白になった。
私は、その名前をよく知っている。


光輝は、私の親友で、初恋相手だ。


静かに涙が頬を伝っていることがわかる。


「木瀬?」


背後から、私が立ち止まったことを不審に思った伊藤が声をかけて来た。
だけど、その呼びかけに反応する余裕がない。


「おい、どうしたんだよ」
「木瀬」


伊藤とは別の声が耳に届いた。
現実に戻るには十分すぎる声だった。


「木瀬、今回の被害者と知り合いだね?」


先輩は目の前に立っていた。
私の反応をどこで見ていたのか不明だが、優れた観察力の持ち主の先輩には、気付かれるのも無理ない。


私は抵抗しかなかったが、首を縦に振った。


「……そう。じゃあ」
「捜査させてください!」


遮って、泣き叫んだ。
大人らしからぬ行動だと自覚はしているが、言わなければならないと思った。


先輩は私が叫んだことに驚いていたが、すぐに鋭い視線で私の目を見て来た。


「ダメよ」


突き放すような、冷たい声だった。
しかし、どんなことをされても、言われても、引き下がりたくない。


それが伝わったのか、先輩はため息をついた。


「身内、もしくは知り合いが被害者の場合、捜査には加わらない。忘れたの?」