それでもまだ何かを言おうとする白木くんに、目で訴える。


白木くんは諦めたのか、視線を落とした。


「……俺は、ここに来るために電車に乗っていました」
「家から署に向かう途中でした。歩きながら、光輝と電話してました」


この時点で、私たちのアリバイは成立するようで成立しなかった。


「矢場光輝の人間関係については?誰かに恨まれていた、とか」


そのおかげか、先輩は私たちを疑うことを後回しにした。


「穏やかで優しい、何事も平和的に解決してしまうような人で、恨みを買っていたとは思えません」


白木くんの言葉を伊藤がメモを取り、先輩は腕を組んで考えている。


「学生時代は?」
「目立つようなタイプではなかったけど、誰とでも仲良くしてました」


先輩は腕を組んだまま、店内をうろつき始めた。


「誰かに恨まれるような人じゃない……てことは、通り魔か……朝から通り魔……なわけないか」


それは考えごとをするときの先輩の癖だった。
歩きながら、独り言をつぶやく。


私たちは先輩の考えがまとまるまで、大人しく待つしかない。


「伊藤。現場付近に聞き込みしてるところから連絡は?」
「まだありません。一度合流しますか?」


先輩は伊藤の提案をのみ、店をあとにした。