『私がおじさんに怯えて逃げるのならわかりますけど。
 おじさんが私に怯えて逃げるの、おかしくないですかっ?』

 ぴったり張り付きすぎていたんじゃないだろうか……。

 夜道をおじさんの真後ろに張り付いて、しゃかしゃか歩く真湖を想像して笑ったとき、また、

 ひたひた……と足音が聞こえた。

 ん? と振り返ると、誰かがブロック塀の陰から覗いていた。

 真っ白な、ふわふわのファーのコートに長い黒髪。

 一瞬、絵本の中から抜け出てきたのかと思った。

 少し丸顔で整った顔をした女がこちらを見ている。

 少女のような雰囲気だが、大人の女のようだった。

「……羽村さんですね」

 彼女はそう呼びかけながら、こちらに出てきた。