「ああいうのは、現実が平和な奴が見るもんだ。
 実際、追いつめられてるときには見ないだろ」
と横に腰掛けながら、雅喜が言う。

「課長は最近、あまり見ないですが、なにかに追いつめられてるんですか?」

「まあ、ある意味、追いつめられてるな」
と言いながら、真湖の腕から、そっと赤ん坊を取って、抱いてくれる。

「あ、ありがとうございます。
 わー、ほら。

 手が勝手に震えてますよー」

 抱っこのしすぎか、子どもの重みがなくなった瞬間、左手が小刻みに震え始める。

「この振動を利用して、なにかできませんかね?」
と言ってみたが、

「思いついたら、論文でも書け」
と軽く無視された。

 雅喜は腕の中の赤ん坊の顔をじっと見つめている。

 赤子が目を覚ましたら、わっ、と驚きそうな真剣さで。