「今日から独り暮らしか。心機一転頑張ろ……」



福岡のアパートでの初めて迎える夜。

宅配便で届いた荷物の片付けもほぼ済んで、テレビの画面をボーッと眺めながらぼんやりしていた。



そういえば電話かかってこないな。

お母さんのことだから、寂しがって絶対かけてくるだろうと思っていたんだけど。



「やだ、かかってくるわけないよ」



私の携帯、電源切ってたんだった。

そろそろ電源入れてみる?

…………まだ入れなくていいかな。

誰もかけてくる人いないだろうし。



ああ、忘れてた!

会社から支給された携帯があるんだった。

お母さんならこっちも番号知ってるし、しばらくプライベートの携帯は放置しておこう。

会社の携帯の電源を"念のため"と思って入れてみた。

この携帯からお母さんにかけてみようかと思ったのとほぼ同じタイミングでブルブルと震えだした携帯。



えっと、この番号はだれだっけ?

お母さんの携帯とは違う番号。

会社の誰かだろうけど、休日にかけてくるなんて。

出ないわけにもいかず、通話ボタンを押した。



『もしもし、生田。もう引っ越し済んだとか?福岡での初めての夜やな』



「瀬名くん……。電話大丈夫と?」



まだ消灯時間前なのかもしれないけど、病院からじゃ落ち着かなさそう。



『俺、今日は外泊で家に帰ってきたけん。また明日病院に戻るけど、金曜日に退院の予定さ。生田にも迷惑かけとるし、一応報告な』



「退院決まったと?良かったねおめでとう瀬名くん」



意識が戻ったばかりなのに、もう退院できるなんてすごい。

この調子なら、仕事復帰も早そう。



『明日、お前に小野さんから連絡来ると思うけど。来週の月曜日にこっちで会議って。だけん週末帰ってこいよな』



「会議?私も出らんばと?」



そんな会議が予定されているのなら、まだ長崎にいてもよかったんじゃ……。

って、それじゃ困るのは私だ。

友也や未来から逃げるように長崎を離れたんじゃないの。

しかし週末に戻らないといけないなんて。



『言うとくけど、お前は福岡のメンバーとしての参加ぞ。それに小野さんが最初の一週間での成果ば見たかって言いよったし。大丈夫か生田、小野さんの期待に応えられる自信あっとか?』


 

ない、なんて言いたくない。



「が、頑張るつもりけど。週末は……」



帰りたくないかな。