『もしもし生田、元気やったか?』

「小野さんっ」

なんというタイミング。

いま正に小野さんに相談したいなと思っていたところだった。

『課長から打診されたろ、福岡行き。いつから行くごとなった?』

「えっ、いつからって……。まだ課長に返事してません」

今日言われたばかりだし、まだ私の心は決まっていない。

そりゃ、課長からも言われたように早目に返事しないといけないって分かってはいるけど。

『は!?もしかして迷っとるとか。なんか都合の悪かことでもあっとか?』

「正直言ってまだ踏ん切りがつかないと言いますか……」

小野さん、私が福岡行きを決心したという前提で電話してきたんだろうか。

だとしたら決断力がない奴だと呆れられてしまったかな……。

『迷ってる暇があったら行動せんば。身軽に動けるうちは特にな。お前もそろそろ結婚とか考える歳になってきたやろ?どうや、彼氏からの求婚はまだか』

小野さんは三つ年上だから、二十九歳かな。

既婚者で二人の娘さんが可愛くてたまらないらしい。

「まさかのまさかですよ。そんなの影も形も見当たりません。確かに身軽なのには間違いないんですけど」

小野さんが結婚したのは福岡に転勤になる直前だから、六年前のことだ。

当時付き合ってた彼女さんの妊娠が発覚して、できちゃった結婚。

『俺に着いて来い!』ってプロポーズしたっていう話だ。

『実は俺が福岡行きを拒否したのは、瀬名や生田のためだけじゃない。俺自身のためでもあるんだ。上の娘が来年小学生になるんで、そろそろ地元の長崎に落ち着きたいってのもあってな』

せっかく長崎に戻れるはずが、また福岡に行かされそうになったってことだよね。

そしたらいつこっちに戻れるのか分からなくなるよねきっと。

小野さんだったら福岡でも即戦力間違いないから手放すのを惜しまれるだろうし、娘さんの小学校入学までに長崎に帰れなくなるかもしれない。