「そがん不吉なこと考えとうなかけどな。瀬名が戻ってくることば想定して最善の策を練ったつもりさ。しかし会社としては最悪の場合にどうするかっていう段取りもしておく必要はあるが、お前は心配せんでよか」

「あの、課長。それって決定事項なんでしょうか……」

会社の決定には従わなければならない。

でもあまりにも突然だし、想定外だったから、少し考える時間がほしいというのが本音だ。

「別に命令しとる訳じゃなかけん、行くか行かんかの決定権はお前にある。しかし早よう返事してくれんと、こっちも段取りや調整のあるけんがな。家族にも話さんばやろうし、出来るだけ早目に頼む」

「分かりました」

小野さんが長崎に戻ってくるのなら、またいろいろ教わることができるのに。

福岡の事業所では今までのスキルが役に立つのだろうか?

そして小野さんが言うように更にスキルアップすることができるのか……。

私は、どうしたいのだろう。

自分自身で答えを出さなければ。


瀬名くんは福岡に行くことを熱望していた。

彼にはなにやら思い描いている"人生プラン"があるらしいし。

それに福岡には瀬名くんの幼馴染みで元カノの女性がいる。

あと少しだったのに……。

このタイミングで事故に遭ってしまうなんて。

運が悪いというか、ついていないというか、可哀想。

瀬名くんは私に『俺だって頑張るとやけん』と言っていた。

事故に遭ってなかったら福岡でやりたい事がたくさんあったに違いないのに。

その思いを無駄にしてはいけないよね。

瀬名くんの意識が早く戻ってくれると信じて、私ができることでサポートしないと。

『お前も頑張れ』って言ってた瀬名くんを思い出す。

そう、なにも瀬名くんの為だけじゃない。

私が福岡に行く予定なんてなかったのに、ピンチヒッターを任されるって事は私にとってはチャンスでもある。

滅多にできない経験をさせてもらえるんだから。

机の上に無造作に置いていた会社支給の携帯がブルブルと震え出した。

もう定時を過ぎているのに、誰からだろう?