いつか、きっと。

「予期せぬ事態で皆には苦労させて悪いな。このままじゃまずいから体制を立て直すために手を打つ。ちょっと予定より早くなってしまうが、あの男を呼び戻すことにした」

「あの男って?」

「お前もよく知ってるアイツだよ。関東へ行ってる……」

もしかして!

ものすごく頼りになる、あのお方?

「小野さん、ですかっ!?」

「さすが生田、察しが良いな。その通りだ」

小野(おの)真次(まさつぐ)さん。

入社当時、私と瀬名くんの教育係だった先輩だ。

同じ職場でお世話になったのは最初の二年だけで、その後は福岡そして関東へと異動していた。

「本来なら小野は四月にはこっちに戻って来ることになってたんだが、あちらの都合で半年延期されてた。しかし緊急事態だからな」

「小野さんだったら百人力ですね!ということは、瀬名くんの分はすべて小野さんに任せて大丈夫ってことですか?」

良かった。

これで当面の心配が少しでも解消されると思い、安堵のため息をついた。

「瀬名の分だけじゃないぞ。……そこで生田に折り入って相談したいことがあってな」

「私にですか?瀬名くんのために何かできることがあるのなら、役に立ちたいなと思ってますけど」

よっぽど深刻な内容なのか、わざわざ別室に移動して話を聞くことになった。

「実はな、小野が瀬名の代理で福岡に出向という話も出たんだ」

「長崎に戻って来るんじゃなく、また福岡にですか?」

小野さんは関東の前には福岡にいたから、そうなった方がいろいろとスムーズに事が運ぶのかも知れない。

だけど、そしたら瀬名くんはどうなるの?

意識が戻って順調に回復したら、仕事復帰も早いかも知れないのに。

小野さんが福岡に落ち着いてしまったら、瀬名くんの出向は立ち消えになってしまうんじゃないのかな。

「役員会でそういう提案がなされたんだ。しかしその案は見送られることになった。小野自身が断固拒否したからな」

小野さんだったらどこでも即戦力なんだろうけど。

拒否したっていうのは……?