…………ん?

ゴツンとぶつかったというよりは、押し付けられてる感じ。

痛い?いやそんなには痛くなくて、痛いっていうよりは、苦しい。

自分が今どうなっているのかよく分からなくて、つぶっていた目を恐る恐る開けてみた。

えっ?友也?

こんなにどアップで友也の顔を見たのって初めて。

体に重苦しさがないのは、さっき掴まれたはずの腕がとっくに離れていて、友也が自分の体を腕で支えているからだろうけど。

じゃあ苦しいのは?

それは、口が押さえつけられたままで息ができないから。

体は動かせないまま、頭だけフル回転で一瞬のうちにいろいろと考えが駆け巡った。

その結果、私はとんでもない今の状態に気が付いてしまった。

私の唇にさっきから触れているのは、友也の唇だってことに。

えっ、ちょっちょっと、待って待って!!

なんで、なんで私が友也とキスなんかしちゃってるの!?

頭がパニックになりそうな中、やっと友也が体を起こしたので私の唇が自由になった。

「ごっ、ごめんっ!!」

え?『ごめん』って……何が?

ずっと廊下に寝ている訳にいかないから、私も体を起こした。

頭の中は混乱したままだけど……。

「転ばんように引っ張ってやろうとしたけど、俺も一緒に倒れてしもうて。ぶつかって痛かったやろ?……ごめんな明日美」

「えっ、いやそげん(いと)うなかったし。私が滑ったけん……。私も、ごめんね」

なんで謝っているのかよく分からなかったけど、友也に謝られたから私もとりあえず謝った。

「はい、コレ。教室に荷物取りに行って帰るか」

やっと私の手に戻ってきた成績表をしばらく眺めて、先に階段を下りていった友也の後を追った。

いつも通りに友也と一緒に帰ったけど、私には分からなかった。

あれは、単なる事故?

でもそうなら、もっと痛かったはずじゃないの?

それこそ歯と歯がぶつかって、唇が切れたりとか、しないの?

もしかしたら……わざと?

まさかね、そんな訳ないよね。

結局答えは出ないまま、悶々とした冬休みを過ごす羽目になってしまったのだった。

今まで意識していなかったのに。

気がつけば友也のことばかり考えるようになっていた。