閑静な住宅街。

日の暮れたそこは、各家から漏れでる光に包み込まれている。


幸せそうな家族達が集う様子が時おり道沿いから見える。

あんな風に幸せな家に、一度くらい住んでみたかったと思うのは、私の我が儘かな?

もう、願っても我が家があんな風に幸せな絵を描き出すことは無いだろう。



住み慣れた我が家に近づくにつれて足取りが重くなるのは、昔から変わらない。

今日、この日が最後だと思ってもそれは同じだった。


明かりの灯った我が家は、いつものように冷たくそこにたたずんでいた。



「ただいま」

ドアを開けて中に入ると、聞こえてきたのは出迎える声じゃない。


「いつもいつも、私ばかり」

「僕は仕事で疲れているんだ」

「残業だと言いながら女の所に入り浸ってるくせに」

「そう言う君も若い男に入れ込んでいるじゃないか」

両親の罵倒し合う声に、はぁ・・・と溜め息をついた。


いつもいつも、顔を合わせれば言い合い。

私が物心ついた頃には、両親の仲は冷えきっていた。

二人が笑い合ってた所なんて、そういえば見たことないかも。


肩を竦めて靴を脱ぐと、両親が言い合いをしているリビングへと向かった。

あの二人にはただいまと言った私の声なんて届いてないんだろうな。





ドアを開けてまず目に入ったのはソファーの前で向かい合って罵り合う両親。

互いに顔を歪めて嫌悪感丸出しだ。


顔を合わせる度にこんなにも憎しみ合うのなら、さっさと離婚すれば良かったのにね。

チクチクと胸の奥に何かが刺さったのを、気付かない振りをした。


子供の為、世間体の為、そんなモノに縛られてる二人を解放してあげるね。

私も十分苦しんだから、そろそろこの状況から解放してもらいたいんだ。


「ねぇ、また言い合い?」

抑揚なくそう言った私に、二人の罵りあいがとまる。


「・・・か、帰っていたのか?」

父親かバツが悪そうな顔をした。


「す、直ぐにご飯にするわね」

母親が妙に焦ったように動き出す。


互いの目は見ずに、私にだけ視線を向ける二人は愛し合った事が一度でもあるんだろうか?

両親は一応恋愛結婚らしいのだが、私の記憶の中に二人が心を通わせてい事なんて一度もないんだよね。


自棄に冷静な気持ちで、焦っている両親を見詰めていた。