慈顔で私を見つめるお祖父ちゃんに申し訳ない気持ちが沸いてくる。

お祖父ちゃんの事は好きだけど、愛情を持っているか? と言われると否だ。


物心ついた頃には、両親は仕事と互いの恋人と会う事に忙しくて、私になんて愛情を注いでくれる事なんてなかった。

そもそも愛情がなんなのかを私は知らない。

幼い頃にもらった事の無いものを、育む事なんて無いだろう。


小学校の中学年になるまで、私の世話は彼らが雇っていたベビーシッターがしてくれていた。

彼女は悪い人では無かったけれど、雇われと雇い主の雇用関係で結ばれていただけ。

そこに愛情を感じることも生まれることも無かった。


互いを憎しみ合い、外に愛を向けていた両親から、学んだのは愛情なんて幻想だと言うことぐらい。

だから私は愛なんて信じない。


儚くて脆いものに、何一つ見出だすことは出来ないから。


私が家を出た後に離婚の決まった両親からは、父親が親権と養育費をみると言う事務的な連絡が来た。

もちろん私の住む場所を知らない両親が会いに来る事もない。


私の方も自ら連絡を取ることをせずに、お祖父ちゃんの専属の弁護士を通してやり取りをしていた。

父親が親権を持つことで色々と不便が出ると困るからと、監護権をお祖父ちゃんが保持してくれている。

だから、今のところ、学校や生活について不便はない。







お祖父ちゃんと差し障りのない会話をしながら、食事を進める。

高級店らしく、上質の材料を使った美味しい料理だ。


舌鼓を打ちつつ、聞かれた事に答えていく。

「勉強はどうだ?」

「中間テストが近いから、それなりにやってるよ」

「そうか。生活で困った事はないか?」

「今のところ大丈夫」

「何かあったらすぐに言うのじゃよ。ワシに言いにくかったら池崎でもいいからの」

壁際の池崎さんに視線を向けたお祖父ちゃんに対して池崎さんは了承するように頷くけど、彼には言わないと思う。

悪い人じゃないけれど、私はあの人の探るような視線が苦手なんだ。


昔から、あの人は一線敷いてたし、私も一歩下がって見ていたから。

池崎さんのあの視線が彼の職業上のものだろう事は、世の中の理が分かってきたこの年になって分かるようになった。

それでも、彼を苦手な事には変わりなくて。


池崎さんに、連絡するのはよほど困った事が起きた時じゃないかな、とぼんやりと思った。