藍と真知子さんは似ていないようで似ているところがある。
優しくて、感情が豊かだ。
それを内に秘めているか、表に出しているかの違いだけだ。
だけどそれを思っていたのは出会いはじめの頃だけで、今の自分にとっては藍は藍だ。
そして、真知子さんは真知子さん。
俺が惹かれる人はきっと、俺が持っていないものを持っているんだ。

だから焦がれ、だから不安なんだ。
きっといつか離れていってしまう。


「こっち、来たら?」

藍の言葉に合わせて近づく。
豆太が足音に反応したようで目を覚ました。
耳を澄ませて、俺が近づくのを待っている。
藍の隣に腰を下ろしたら、再び安心してお休みモードに入ったようだ。

「あのね、祐真くん」

こちらを見る藍の瞳は強く、優しい。

「私の幸せは私が決める。あなたと笑い合うだけが幸せじゃない」

切り出された言葉に肩が震える。
これはもしかしたら別れの言葉なのかもしれない、なんて、先程の自分を棚に上げて怯える。
自分から手を離そうとしたくせに、いざとなると、藍の口から言葉を聞くと思うと心臓がヒリヒリする。
俺はそれを黙って受け入れることしかできないのか、と唇を噛む。

幸せになって欲しい、幸せに。
だけど……

「幸せに、なってほしいんだ。俺には藍を幸せにできる自信がない」

隣にいる藍の怒りが伝わる。
怒らせてごめん。
そうじゃないんだ、本心は……。

「だけど、それでも俺は君を手放すことが出来そうにない」

別れを切り出されるのかもしれない、と、感じた時に強く思った。
他の誰にも代え難い“誰か”を手放すことはもうごめんだ。