「──久遠くん?」 売店近くで人が賑わっているというのに、その声だけがはっきりと聞こえたのは その声に聞き覚えがあったから── ──そう。智紘先輩の彼女さん、だ。 「っ─」 ま、まずい。 今の状況を見られてしまった…… ─と、咄嗟に掴まれたままの手を思い切り振り払うと、智紘先輩が「えっ…」と小さな声を漏らした。 触れられていた手に熱が残っているようで、そこからも鼓動が伝わってくるようで。