数日しか顔を合わせていない相手に先輩が、そんなことを言う理由がよく全く分からなかった。


「あ、あの…先輩、聞いてます?」

「…。」


そっぽを向いて頬杖をつく。


「あの、…先輩?」


わたしの言葉にまるで無反応。

……ああ、そういえばさっき智紘先輩って呼ばないと返事しないとか言ってたっけ……。

先輩なのに子供っぽく見えるっておかしいな。


「………ち、智紘 先輩?」


今までそっぽを向いていたはずの顔がいきなりわたしの方に向き直り、ニコッと微笑んだ。

……な、なんだろう、この感じ。


「いいね、それ。やっぱ名前で呼ばれんの、すっごい嬉しい」

「そ、そう、ですか……」

人と話すどころか人から笑顔を向けてもらえることなんて今までにほとんどなかったから、どうすればいいのかよく分からなくて、思わず目を逸らしてしまいたくなった。