「ダメ! そんなの俺無理だから!」


子供のように駄々をこねる先輩。人前でこんなふうに堂々と素を晒していたことが過去にもあったのだろうか……



──チクッ。




………あ、あれ。今の、なに…?

なんか胸のあたりが………



「ねぇ、春香ちゃん聞いてる?」

「へ? ……って先輩近いです! は、離れてください…っ」


慌てて胸板を押し返すと、「あー、ごめん」と言ってへらりと笑った。


毎回思うけど、先輩の距離感覚ってどうなってるのかな。今みたいの距離が先輩にとっては普通なの…?

それとも視力悪いとか? いや、でもそんなこと一度も聞いたことないし……


そんなことを考えていると、いきなり左手に重みがきて何事だろうと袖を見ると、先輩がシャツの袖をキュッと掴んでいた。