……おとなしいのは、先輩が未だに腕を離してくれないからっていうのと、先輩の言葉がいつも以上に響いて恥ずかしく感じるからっていう2つの理由があるから。
そう言えずに、今もなお抵抗しないのはどうしてなんだろう。
ドキドキして力が抜けてるから……?
「春香ちゃんてさー、ほんとに鈍感だよねぇ」
わたしの頬をふにふにしながらそんなことを言う先輩は、いつもの如くほんわかした先輩。
…の、はずだったのに。
「春香ちゃんの言動で俺がドキドキしてるとも知らずに。…ほんと無自覚は参っちゃうなぁ」
顎をクイッと持ち上げられて上を向かされると、バチッと重なる視線。
その瞬間、ドキッと暴れた心。
「こんなに俺、態度で示してるはずなのに、どうして春香ちゃんには伝わってないのかな」
さっきのほんわかした智紘先輩はどこに行ってしまったのだろう。
今、目の前にいる先輩は、まるで別人で。
重なる瞳の奥が、キラリと光ったような気がした。



