「心配すんな。ここは滅多に誰もこねぇから」
そわそわ廊下の方を気にする私に、さっき追いかけられていた時とはまるで違う穏やかな声で言った。
よかった……。
それならちょっと安心かも。
「ここは逢坂くんの隠れ家ですね……?」
「その敬語やめろ。同じ学年なんだし」
「は、はい!」
「ぷっ……。今言ったばっかだろ」
さっきまで怒っていた顔がくしゃりと崩れて、逢坂くんがイタズラっぽく笑った。
それから時々、逢坂くんが学校に来ると、一言二言話すくらい。
特に仲が良かったわけではないのだけど、視線を感じて振り向けば、いつでも逢坂くんと目が合った。
もしかして……私が隠れ家のことを口外しないか見張ってるのかもしれない。
そんな心配もあったけれど、逢坂くんがそれを確認してくることは一度もなかった。



