「…あの、私、負担をかけてしまいませんか?」

「ん?」

「言いにくいんですが、その…。お食事するとしても、高いところはそうそう払えませんし、奢ってもらうのも申し訳なくって。…車だって、ガソリン代とかかかるでしょう?」


私は、それが気がかりだった。デートに誘われたからといって、男性側がお金を多く負担するのを当たり前だと思うのは違うと思った。それは、彼が御曹司であるとか、私のためにお金を出すことを気にしていないとか、そういう問題ではない。

お金にシビアな環境で育ったから特にその感覚があるのかもしれないが、彼に全部払ってもらうのは何となく“フェア”じゃない気がして嫌だった。


(庶民と御曹司の間の“フェア”ってなんだ、って聞かれたら困るけど…)


…と、その時。

彼は、すっ、とスーツの胸元から白い封筒を取り出した。また“こどもぎんこう”の小切手かと思ったが、そこに綴られているのはお洒落な筆記体である。


「これは…?」


私が、きょとん、と目を丸くすると、彼はニヤリと笑った。


「これは土曜の夜に開催されるクラシックコンサートの優待チケットだ。」

「“クラシックコンサート”…?」

「あぁ。昨日のクルージングにゲストで来ていた主催者から貰ったんだ。“無料”で。」

「“無料”!?こんなに素敵なコンサートがですか…?!」

「このコンサートで使用されるホールとグランドピアノはウチの会社のだからな。毎年招待してくれる。…今年は百合を連れて行ったおかげでペア券だ。むしろ行かない方が悪いだろう。」