「あんたあん時……最後や思った時、泉が浮かんだやろ。誰でもない、組のことでも自分のことでもなく。
あんた泉に謝りたいってゆうたやん…」
ぐすんと鼻をすすり杏は制服の袖で顔を覆う
この子は、俺と親父のために泣いてくれてるのか?こんな捻くれた親子喧嘩に。
出会って二回目の親父のために泣いてるのか?
杏の涙を拭こうと手を伸ばしたその時
杏は親父の胸ぐらを掴んだ
入院服は襟元が緩く、杏が掴んだ服も伸びて形を変える
目を丸くした親父に、抵抗する間を与えずに杏は捲し立てた
「諦めんな!!!!病気も泉のことも、諦めんなよ!!!」
杏…
「何もかも遅かったんだ」
「遅くなんかない!!!」
親父をぐいっと引き寄せて、杏は親父の目をしっかり見て言った
「手遅れならあたしは泉と一緒にここに来てへん。手遅れなら…泉は泣いてへん!!!!今からでも親子やねん!なんとでもできるやろ!それからも逃げんなよ!!」
杏の心の叫びを聞いた
杏の流す涙は、人を思い流れた涙で、とても綺麗だった



