そして脱走を図った後に連れてこられるのは、いつも同じお父さんの部屋。
名前も知らない新人執事に連れられて一緒に部屋の中へと入ったのはいいのだけれど、ただならぬ重々しい空気が流れていて、とても居心地が悪かった。
「ねぇ、ここに居ちゃまずいんじゃない?」
「出たら、また逃げるでしょう?」
「……」
この雰囲気を理由に逃れようとした作戦が見事にバレてしまっている。
出入口を塞がれてしまって、私は息を潜んでそこにいるしか無かった。
そんな私たちがいることに気づかず、話が進んでいく。
「もう私には手に負えません……お許しください」
そう震える声で呟き土下座をする私の専属執事・神山さんと、それを立派な椅子に座り、困り顔で見下ろしているお父さん。
「優秀な貴方でもダメでしたか」
「私ももう歳です。先回りしようにも体が追いつかず……」
神山さんが謝っているのは、私のことだとすぐに理解した。
小さい頃からお世話になっている神山さんには申し訳ない気持ちも少しはあるけれど、この生活が嫌で嫌で仕方がない私にとっては見逃して欲しいところ。