「何を躊躇してらっしゃるのですか」
戸惑う私を他所に、またも腕を掴まれ引き寄せられ、私の視界は有嶋の大きな胸で遮られた。
ただでさえ狭い電車内で、更に近づく有嶋との距離に何故かドキドキしてしまう。
ただの執事なのに……
異性とこんな近くで接したことないから。
このドキドキの理由はきっとそう。
落ち着こうと深呼吸しても、なかなかおさまらない胸の鼓動。
近くにいる有嶋に聞こえてしまいそうで、気付かれないように必死だった。
お願いだから、早く学校の最寄り駅に着いて。
私の願いも虚しく、電車が普段よりも早く着くはずなんてなくて、しばらくそのまま揺られてやっと駅に到着した。
「……ふぅ」
逃げたくても逃げられない空間から抜け出せた私は、安堵のため息をつく。
「なぜ安心なさってるのですか?急がないと本当に遅刻しますよ?」
そうだった……!
ゆっくりと解放感を味わっている暇はない。
途中何度も「遅いですよ」と有嶋から喝を入れられながら、遅刻3分前にギリギリで教室に入ることができた。



